一の倉沢烏帽子岩南稜

2007年10月15日

 2週間程前、会の人に案内されて南稜に初挑戦した。 雨のため南稜を1ピッチ登ったところで引き返してきたが、 一ノ倉沢出合に立つのも初めての私にとっては大きな成果 であった。 その経験がなければ今回の計画は、立案すらも思い浮かばなかっただろう。

 MNさんとは今年になってから三ツ峠などで何度もトレーニングを重ねてきた。 谷川を目標にしていたのではなかったが、そのトレーニングのおかげで、 今回の南稜のパートナーにMNさんを選ぶことに躊躇はなかった。 MNさんも2週間前に南稜初体験を私と共有していた。



 14日(日)の17:00に大和駅で待合せ、ファーゴで谷川岳ロープウェイ駐車場に向かう。 22:00前に着き早速寝る。いつも沢山の登山者が寝ているフロアーも今晩は我々2人のみであった。

 4:00に起きて朝食を済ませ、一ノ倉沢出合に向かう。 空は満天の星である。 天気は良さそうだ。山に入る時、これほど嬉しいことはない。 出合の駐車場には数台の 車があった。まだ真っ暗なので車中待機し、 5:00ごろからライトを付けてギアの確認をした。 真っ暗の中、慣れない道は歩きたくない。

 5:20になってライトなしでも何とか歩けるようになったので歩き始めた。 2週間前とは違い、出合にはグラビアで目にする風景があった。 「おおっ、これか〜、これが一ノ倉か〜っ」。 確かに迫力の シーンがあった。

 2週間前の記憶を辿るようにゆっくりと歩く。 ヒョングリの滝の手前で先行の2人組準備をしていた。 彼らは本谷に入るという。 我々は滝を高巻き、残置ロープで懸垂し、 テールリッジに取付いた。目の前の岩壁は紅葉で赤く燃えている。 緊張していても、景色のすばらしさを感じることはできた。 前回の経験のおかげで南稜テラスまで何の不安もなく歩くことができた。 南稜テラスから振向くと衝立、烏帽子、本谷の3本のスラブが朝日に輝いている。 紅葉よりも印象的な光景だった。 スラブの白さが目にしみる。

 1ピッチ目、GTトップで登攀開始。上部のチムニーへのロープの流れを考えて、 できるだけ右寄りを登る。これも前回学んだことだ。 マッチー泣かせ(?)のチムニーも楽々と越えた。

 2ピッチ目はMNトップ。ここからは我々にとって未知の世界である。 しかし、天気が良いこともあって、とくに困難もなく5ピッチで登攀終了点に達した。 登攀中から国境稜線付近にはガスが出てきたが、 このころになるとそのガスはだいぶ下がり、 目指す方向はガスの中だ。 予定通り上に向うか、予定を変更して懸垂で降りるかちょっと迷ったが上を目指すことにする。

 ここからが苦難の連続であった。 雨は降っていなかったがガスのために岩は既に濡れ始めていた。 草付からワイドクラックをスタカットで登り、 一ノ倉尾根に出たときには既に精神的に疲れが見えていた。 先ほどまでの快適なクライミングとは大きく違い始めていた。 一ノ倉尾根の稜線に出た頃から小雨となり、視界もほとんど効かない。 危うい稜線を行くと何度も岩が出てくる。 岩は大小さまざまであるが、滑ったらどこまでも落ちて行きそうなところばかりで、 致命的なことはどのサイズの岩でも同じである。 今振返ると易しく小さい岩もあったが、「もし滑ったら」と思うと スタカットを選んでしまう。時間がかかる。

 国境稜線に13:00着を予定していた私は12:00を過ぎて焦り始めた。 雨が止んでも辺りはガスで真っ白であり、 岩を含めて道が乾くことはあり得ない。とはいえ、雨が止んだだけでも有難かった。 長い間ロープを付けて歩いた後、 このままではビバークになるのではないかという危機感から、 ロープをザックに収めて歩くことにした。

 既に大きな危険箇所を過ぎていたこともあり、スピードは上がり、 国境稜線に達することができた。 予定時刻から1時間半も過ぎていた。 最も悲観的になっていた時は、17:00に国境稜線に着けばよい、と思っていたので、 14:30に着いたことはまずまずであった。 これなら、真っ暗になる前に一般道の危険箇所も過ぎることができるだろう。 実際、ヘッドライトを付けたのは、巌剛新道の傾斜が緩くなってからだった。 もちろん、そうするために、 明るいうちにできるだけ早く歩いたのであるが。

 トマの耳付近から(15:30頃)、朝出会った本谷のパーティーが国境稜線に迫って いるのが見えた。「ああ、彼らはまだやっているなあ」という感動が込み上げた。 この共有感は確かにアルパインクライマーにとって感動的なものである。 我々は、すばらしい紅葉を見ながら、 しかし、最後(駐車場)まで緊張感を持続しながら歩くことに集中した。 車道に達した時、思いが成し遂げられたことを確信した。

 MNはすべての行程において不安を感じなかったという。 私の選んだパートナーはとんでもない大物だったらしい。 まずは、彼女に感謝である。 また、技術面、精神面で陰に陽にサポートしてくれた会のメンバーに感謝したい。
(GT 記)


【コースタイム】
出合5:20 〜 テールリッジ取付き6:10 〜 7:00中央稜取付7:10 〜 7:20南稜テ ラス7:40 〜 登攀終了点10:30 〜 国境稜線14:30 〜 15:40トマの耳15:50 〜 オキの耳16:00 〜 巌剛新道分岐16:50 〜 車道18:05 〜 出合18:25


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