《コースタイム》
3月17日 天気:快晴 竹宇駒ケ岳神社 5:00〜7:15 笹ノ平(粥餅石) 7:35〜8:30 刃渡り〜9:05 刃利天狗 9:20〜 10:10 5合目 10:40〜11:45 七丈小屋 12:00〜13:35 8合目(鳥居跡) 14:00〜16:00 甲斐駒頂上 3月18日 天気:快晴 頂上 6:20〜7:45 駒津峰 8:00〜9:00 仙水小屋 10:10〜14:10 戸台 今シーズンの目標の一つに、単独で本格的な冬山を経験したい、ということがあった。 いきなり1、2月では苦しいので3月がいいだろう。 実は、黒戸尾根はまだ無理と感じ ていて、1泊2日で西黒尾根が最有力候補だった。 ところがちょっと前に、雪童の《 N(ベテラン)+H(新人) 》のペアで黒戸尾根を完登した。 私の感想は、「えっ、Hさんも登れたの?ウソでしょ??」。 これがあったので黒戸尾根を真面目に候補に考 えるようになった。 Hさん、失礼をお許し下さいm(_ _)m 友人に車で送ってもらい竹宇駒ケ岳神社には4:30に着いた。 駐車場には2台の車とテン ト一張り。自販機の横で二人が寝ていた。 真っ暗な中を歩き始めたが吊橋を渡る頃には ほんのりと明るくなり始めた。 ずっと雪はなかったが、北面を歩くようになると少しずつでてきた。 所々凍っているが、アイゼンを付けず、また、休憩も我慢して笹ノ平まで 頑張った。 笹ノ平で休憩し、アイゼンを付ける。そこから少し行くと広い尾根になり、 それが細くなって少し視界が開けると刃渡りである。 ここは黒戸尾根の危険箇所の中では問題にならないところである。 再び視界の効かない樹林帯に入るとすぐに刃利天狗で、 この辺りから雪は多くなった。 刃利天狗を過ぎて登りの後、黒戸山を右から大きく巻く長いトラバースがあり、 降りになって視界が開けると五合目小屋である。 甲斐駒が姿を現し感動する。 五合目小屋は半ば雪に埋もれて辛うじて立っていて、 入り口の壊れた戸には立入り禁止のテープが張ってあった。 暖かい日差しの中、ゆっくりと休憩する。 ここから黒戸尾根の悪場が始まる。 梯子や鎖場を登り少し平になった後、 急な登りがあり尾根を左から巻くようになると 七丈小屋が現れる。 普通はここにテントを張るところだが、今日は上を目指す。 ここまで順調(過ぎる?)である。 ここから上は樹林帯を抜け、漸く白い雪が眩しい世界となった。 ここでコンタクトレンズをはめ、サングラスをかけた。ルートは直登の後、 尾根は左に曲がりその先が八合目である。 雪が多く、場所によっては腰程度のラッセルの跡が見られる。 斜面は急で、アイゼンを蹴り込んだときに割れた表面の氷は谷底へと消えていった。 緊張する。 また、登り始めから7時間以上過ぎており、疲労もあって辛い時間が始まった。 八合目はゆったりと休める場所で、これまでの道程が見渡せる。 北岳が見えて、再び感動する。 よいテント場(風は心配だが)であり、 今日中にここまで来られれば上出来と思っていたが、 まだ時間があるので頂上を目指すことにした。 黒戸尾根の核心 部はここからである。 前夜、黒戸尾根を知り尽くした友人が、「一箇所だけ本当に危険なところがあり、 雪の付方によるがそこから引き返す人も多い」と聞いていたコルを確認する。 左には大きな雪庇が出て右は黄蓮谷に落ちている。 見た目は地味だが確かに緊張するところだ。 その後の雪壁のルンゼはルンゼごと崩壊する可能性もあるという。 その意味では岩のリッジを辿る方が安全である。 登っているときにはそのことを知らなかった。 リッジの取付きで木が邪魔をしてうまく取付けなかったことと、 ルンゼの方にトレースがあったので、怖い雪壁であったがそちらを選んだのである。 巨大な三角岩の基部も窪地でよいテント場(大きいテントも幕営可)であったが、 ここまで来たら頂上幕営にこだわりたかった。 いよいよ頂上直下の緩い雪面を登ると、一面にわらじが取付けてある祠の前に出た。 ここまで無事に来られたことに感謝して心から手を合わせた。 頂上着は16:00になっていたが景色はすばらしい。 頂上は固く凍った雪で覆われてい た。 看板にテントを固定する予定であったが、看板付近の雪はとても硬くスコップの刃が立たない。 西よりの大岩の北側の雪を削って幕営した。まだ風は強くないが寒い。 テントに入って水を作りコーヒーを飲んだがやはり寒い。 テント内の気温は夜にはマイナス20度になっていた。 19:00ごろから風もでてきて厳しい一晩が始まった。 寒さは厳しくシュラフに入っても足の先が暖まらない。 風も強く、テントごと飛ばされれば谷に落ちることは明らかで不安が募る。 眠れないシュラフの中でひたすら夜が明けるのを待つ辛い時間が続く。 3:00過ぎに南風が北風に変わり、テントもひしゃげてきた。 起きてしまおうと思いお湯を沸かしてコーヒーを飲んだが、 まだまだ行動できる時間ではないのでもう一度シュラフに入った。 風でテント内の空間が半分ほどになって窮屈になり、強風のためコンロを焚いても暖かくならない。 この寒さでガスの燃焼も悪くガスが使えなくなる恐怖を思うと思い切って使えない。 そういう理由で、ここはシュラフに入ってじっと我慢するのが最善と判断した。 外に出てテントを直す気にはとてもなれない。 5:00前に起きてラーメンをすする。 昨日のアルファ米の残りはカチンコチンに凍りついていた。 朝食はラーメン雑炊の予定であったが、あまり食欲もないし、 早く出発したいので使用を止めた。 身支度を整えて思い切って外に出ると正面に日の出が見えた。 一瞬感動したが、北岳と仙丈とテントを半ば義務的に写真に収め急いでテントを撤収する。 寒さの厳しい強風の中を一人で撤収するのは困難で、 さらにテントが凍りついて収納袋に収まらないことは想定の範囲内である。 フライ諸共力任せに丸めてザックに押し込んだ。 一秒でも早く下山を開始することが今最も成されるべきことである。 途中、テントの収納袋が飛ばされて摩利支天の方に消えていった。 また、目出帽が目に当たった拍子に右目のコンタクトレンズがとれてしまった。 2重3重に試練が起きるが、ここでメガネに替える余裕はない。 とりあえず下山を開始した。 降りる方向ははっきり見えるが六方石までのルートファインディングは易しくない。 少し降りると風が弱くなった(南面のため)のでやはり左目のコンタクトレンズを外して メガネをかけることにした。 とにかくはっきり見える六方石を目指してそこから北に伸びる岩稜を降るのであるから、 まずはその岩稜に取付かなければならない。 岩稜は左から巻くところがいくつかあり、急な雪壁の降りで緊張が続く。 六方石に着いて一息。 その後も駒津峰までは気が抜けない。 駒津峰に着いて昨日から続いた緊張感から漸く解放されたことを心より実感した。 この先は危険箇所はないはずだ。 景色を楽しみながら安らかに休憩していると単独の登山者が現れた。 昨夜は仙水小屋にテントを張ったという。 考えてみれば、昨日の朝5時に友人と別れてから人に会うのは初めてだった。 漸く私が写った写真を撮ることができた。 甲斐駒頂上の強風がうそのように風も緩やかだ。 本当に安らかな気分で駒津峰を後にした。 【感 想】 「単独で本格的な冬山を」の初体験として黒戸尾根からの甲斐駒越えを実行で きたこと は大きな喜びであり、自信になった。 天気や雪の状態にも恵まれ、すばらしい経験ができた。感謝の気持ちで一杯である。 この日は寒さが厳しかったようだ。 仙水小屋でもマイナス16度まで下がったという。 甲斐駒頂上ではマイナス20度だったので話は合う。 今回の頂上幕営は私の幕営体験では最も厳しいものだったが、 振返るとよい思いでである。 頂上幕営にもかかわらず、すばらしい夜景や日の出を見る余裕はまったくなかった。 そのことは残念だとは思わない。 今振返ってもそれだけ厳しい頂上だったということだ。 いずれにせよ、今回は天気に恵まれた。 来シーズンも是非単独で黒戸尾根にチャレンジしてみたい。 |