9月の例会で会長が年末年始山行の取り組みを確認すると、今年は多くの会員が参加を希望した。
行きそびれる者が無いようにとの会長の配慮で、10月にパーティーが組まれ、ルートはパーティー毎に検討する事になった。
私は夏の剣岳合宿でも組んだKKと一緒だ。互いに力量も分かっているので、正直有難いと思った。
もう1人は11月に入会予定のSK3だ。
例会見学に来ていたので顔は知っているが、ほとんど話をした事もない。
ワンゲルで鍛えられ、雪や岩の経験もあるらしい。
入会してすぐに女性のチームに入れられるのは、レベル的に物足りなく嫌がられるんじゃないかと少し心配になった。
KKとルート検討に入ると、お互いに西穂西尾根に興味を持っている事が分かった。 互いに2007年2月号の岳人記録記事を読んでいた。即決でルートは決まった。 11月に入ってSK3に連絡をとり、早速ミーティング。 女子チームを嫌がる事もなく、初心に戻って基礎からやり直したいと言ってくれた。 やはり岳人を読んでいて、西穂西尾根も快諾。 よし、これで皆同じ方向に向き始めた。 これからの2ヶ月で各々の力量だけでなく、性格や考え方等も互いに分かりあえるよう密な関係を作りあげよう!と 思いながらのスタートだった。 メンバーと行き先が決まって、2ヶ月の間に後述するように計6回の訓練山行を実施した。 訓練山行の内容ついては、その都度足りないものを埋める形で行き先等を決めていった。 そして最終的には下記のような日程とした。 12月31日 新穂高温泉−穂高平避難小屋−1940m付近 1月1日 1940m−2400m付近 1月2日 2400m付近−第1岩峰−第2岩峰−JP−西穂高岳山頂−西穂山荘 1月3日 西穂山荘−新穂高口(西穂ロープウェイ)−新穂高温泉 1日目(12月31日) 天気:小雪、無風 新穂高温泉登山指導センター駐車場(7:50)〜穂高平避難小屋(8:50 )〜1940m幕営地(12:30) 数日前より、天気予報では、年末は大荒れの天気であることを警告していた。 地上天気図や高層天気図にて気象の変化を数日前よりチェックしていても、山では厳しい状況が予想された。 しかし、この年末年始山行のために2か月間訓練してきたのであるし、 エスケープがしやすいということで西尾根を選んだということもあり「行けるところまでは行きたい!!」というのが、 パーティー全員の意見だった。 期待半分、不安半分で、前夜、新穂高温泉に向けて出発した。 前夜は、道の駅『奥飛騨温泉郷上宝』にて仮眠を取った。煌々と明かりが点いているが、建物の中に入って休むことができた。 すでに数名の中年パーティーが仮眠を取っていた。 たまたま起きた人にHMが聞いたところ、涸沢岳西尾根に向かうという。 やはり人気ルートには人が入るようだ。果たして西穂西尾根には他パーティーは来るのだろうか。 夜中2時半頃に就寝し、朝6時半起床の予定だったが、中年パーティーが4 時くらいから起きてがさがさと支度を始めたため、ほとんど眠れなかった。 7時に新穂高温泉登山指導センターの無料駐車場に向けて出発。 駐車場に着くと、支度を整え、7時45分頃から歩き始めた。 雪はしんしんと降っていたが、風が無く、予想外に穏やかだった。 穂高平小屋に着くと、これから始まる急な尾根への登りに備え、しばし休憩を取った。 小屋の前では、毎年恒例の干支の雪像作りを始めていた。小休止を取る登山 者の姿もちらほら見られ、例年の年末の様相を呈していた。20分ほど休憩し、出発することにした。 尾根へは、11月初めに下見をした時と同じ、穂高平の牧場の柵がちょうど切れるあたりから取り付くことにした。 とりあえず、『突っ込み隊長』のKKが先頭を行く。 が、林道から1歩足を踏み入れたとたん、腿まで雪に潜る。 斜面に取り付くと、今度は胸近くまでのラッセルになる。 「えっ、いきなりこれですか!?」と、半ば苦笑しながら、もぞもぞと悪戦苦闘して進むが、 やはりなかなか距離が稼げない。 「こんなんじゃ、今日だけでいったいどこまで進めるんだか・・・。」と、 かなり先行きが不安になっていたところに、上から4人の男性パーティーが降りてきた。 聞くと、昨日2200m付近まで上がったのだが、時間切れで降りてきたのだという。 尾根に上がっても股下くらいまで雪が潜ったらしい。 とにかく彼らの労を労い、彼らが通り過ぎて行くと、迷わず、彼らが付けてきてくれたトレースに乗ることにした。 3人で先頭を交代しながら、急斜面を登っていく。 トレースがあるとはいえ、柔らかい新雪の上に、降り続く雪が次第に積もるため、足元はやはり安定しない。 2か月間、訓練山行を続けてきたとはいえ、重荷を背負っての新雪の急登は、やはり体力を消耗する。 しかしここにきて荷物の軽量化を学習したSK3(彼は最初の訓練山行で、35kgの荷物を背負ってこの急斜面を登った)が、 軽快な足取りで、楽しそうに、率先して先頭を引き受けてくれた。 11月初めの下見山行では、1940mの指標まで直登気味に登ったが、 今回のトレースは向かって左の支尾根のほうから回り込むような感じで1940mを目指していた。 この間は下見山行でもルートファインディングに苦労したため、今回も迷いやすいポイントで赤布をつけ、 どの方向に向かうかマジックで書き込みながら進んだ。 1700m近くで、50代くらいの男女2名のパーティーと出会った。 2人は、1700m強まで行って、降りて来たのだという。 先ほどの4名のパーティーがこの2名パーティーの存在を教えてくれていたのだが、 ここでこの2名も撤退ということになると、いよいよ私たちだけになる。 1800mを過ぎたあたりから、傾斜も段々緩くなる。 樹林が切れて、上空が開けるところでは、時折、太陽や青空が覗いていた。 「荒天の予想はどこへ?」という感じで、いささか拍子抜けしたが、返って不気味でもあった。 12時半過ぎに1940m地点に到着した。ここで、今後の予定について相談する。 天気予報では、今日明日はマイナス36度の寒気が下り、山では典型的な冬型の荒天が予想されている。 そのため、明日までは、樹林帯を抜けて吹きっさらしの尾根に出るのは避けたい。 今日はここで幕営し、明日の行動も第1岩峰手前までとして、 明後日以降に西穂山頂へアタックをしようということで一同合意した。 風は無いが、しんしんと雪が降り続ける中、軽い(?)宴会を済ませた後、明日以降に備えて就寝した。 (ここまでKK記) 2日目(1月1日) 天気:うす曇り、無風 起床(5:00)〜1940m幕営地(7:00)〜2085m(8:00)〜2200m(9:10)〜2300m幕営地(12:00) 昨日会ったパーティーがつけたトレースも、昨夜の降雪でうっすらとしている。 しばらくは平地を行くが、雪は膝下〜膝上程度で20分交代でのラッセル。 2030m辺りから雪に隠れたゴロゴロ岩が出始め、隙間への踏み抜きに注意する。 2080m辺りで左手に北西尾根が見えてきた。あのスカイラインを結んだ 所が明日通過予定のJPだ。急登の先の痩せ尾根は両側が切れてるが樹林帯なので怖さはない。 偵察の際に付けた赤布があった。旧友に会ったようでなんだか嬉しい。 2200m辺りからトレースは無くなり、やっと自分達の足で切り拓く「我らの西穂西尾根!」になった。 腰までのラッセルを楽しみながら急登を上がると前回のテンバ。そのさきは樹林の痩せた稜に出る。 木に積もる雪がメルヘンチックで北八ヶ岳みたいだが、木々の上を歩いてる 感じで不安定。踏み出す足も慎重になる。 緩やかな拓けた場所(2300m)を今日の幕営地とする。時間も早いので、 整地だけして第1岩峰取り付きの様子を見に行くことにした。 2つ目の小ピークを降りた所が取り付きのコル。幕営も可能だが、さっきの方が安心安全快適。 コルから右手に行くと大ルンゼに出てしまうので、左手から回り込むように取り付きへ行く。 11月の下見で見た時は樹林も岩も剥き出しだったので、 小ルンゼという感じがなく然したる苦労も無さそうに見えたが、今は新雪がべったりと覆い小ルンゼという表現に頷ける。 弱層テストをしてみると、1m下辺りに弱層があり手首の力だけで雪がズレてしまった。 幕営地に戻りテントを設置すると日が差してきた。 西尾根はどこからでも携帯が繋がるので、毎日ウェザーニュースをチェックした。 西高東低で山は大荒れと相変わらず予報されているが、その兆しは無くどちらかというと天気自体は穏やかだ。 ただ直前の1週間でやっと冬将軍到来となったために、急に降雪があったのが気になる。 雪は柔らかく、どこまでも潜ってしまう。 今日の工程は11月の下見の5倍の時間を要した。 明日は終始ロープを出して慎重に行く必要がありそうだ。 大荒れ予報で心配している事だろうと思い、会には今のところ順調であることと2300m地点まで到着した事をメールしておいた。 (ここまでHM記) 3日目(1月2日) 天気:晴れ、無風 起床(4:00)〜2300m幕営地(6:10)〜第1岩峰取り付き(7:10)〜第2岩峰取り付き(11:30) 〜第2岩峰上2580m(15:00)〜2550mJP手前のコル(15:30) 07:10 1P目 第1岩峰左の浅いルンゼ。雪が深く苦闘。フィックスロープが少しだけ顔を出す。 この時点で今日山頂を抜けるのは厳しいのではないかと思う。 08:40 2P目 稜線沿いにやや急斜面。ピッチを切った立木下のハイマツが悪い。 10:10 3P目 出だし右に回り込み急斜面を直上。安定感あるリッジでピッチを切る。 風は無いが、西側だけあって待機中は寒い。気温マイナス8度位。 11:30 4P目 岩稜左を行く。第2岩峰の取り付きと思われる。 12:30 5P目 一旦コルに下りた後腰辺りまでのラッセル。眼下に小岩峰。東方は青空だが南・西方面から曇ってくる。 14:00 6P目 当初JPと勘違いしていた第2岩峰上の小ピーク(2580m)へ。 15:00 7P目 目と鼻の先にある2550mのコルへ 15:30 2550m コル到着し行動終了。 予定は山頂経由で西穂山荘にて幕営だったが、新深雪のため思うように距離を稼げず第2岩峰上とJPの間のコルにてビバークとなった。 右手は雪庇、左手は急斜面のコルを整地するが、ハイマツが出てきたので3天を張れる幅を確保するのがやっとだ。 JPへの急登に再び弱層テストをすると、昨日同様に1m下から弱層が現れた。 弱層や締りの無い雪、本日の行動時間を考えると、 明日に山頂を抜けてロープウェイで下山するのは困難と判断せざるを得ない。 残念だが明日は往路を下山する事に決めた。 外は満点の星空。西尾根1900m辺りにぼんやりと明かりが見える。 どこかのパーティーが入山しているようだ。 (ここまで SK3記 / HM補足 ) 4日目(1月3日) 天気:快晴、無風 起床(4:00)〜2550mコル幕営地(6:50)〜第1岩峰取り付き(09:40)〜穂高平避難小屋(12:20) 明るくなるのを待って出発。まだ雪の状態が分からないので、目の前の小ピークの雪壁から一人ずつ確保して下降。 その後の岩峰2P分はロープなし、厭らしいハイマツのリッジから再びロープを出した。 それでも登りに比べると1/3程度の時間で第1岩峰下まで降りる事ができた。 快晴の中、周囲の山々がよく見渡せる。白山が綺麗だ。西穂小屋から山頂を目指す、粒のような行列も良く見えた。 第1岩峰取り付きに降りると、5人パーティーが上がってきた。昨夜の明かりは岐阜の山岳会の彼らだったらしい。 日程の問題でBC方式に切り替え今日は行けるところまでで引き返すそうだ。 当初、西尾根にはあまり人が入っていないと思っていたが、我々のように岳人の記事が印象に残っているのか思いのほか居ることに驚いた。 年末年始で我々を含め西尾根の入山者数多分14名。その中で登頂した者ゼロ。 春山では1泊2日のルートだが、この時期は少なくとも予備日を持っていないと厳しい尾根である。 人が入ったお陰でガツガツ降りれる。 1940mからの下降は自分達が辿ってきたルートではなく、先ほどのPが残してくれたトレースを使い一本左の尾根を降りる事にした。 下部は穏やかで、藪も少ない様子。しかし、穂高平に出てから避難小屋までがちょっと長い。 牧場柵沿いに行けどもなかなか小屋が見えず、嫌気が射す頃に到着。 4日間の戦いを名残惜しむように、直登ルートには我々のトレースがうっすらとだけ残っていた。 ●トレーニング 1)西穂西尾根偵察(新穂高温泉−穂高平避難小屋−2400m地点の第1岩峰取り付き点まで往復) 2010年11月6−7日(全員参加) 積雪10−20cm程度。稜線に上がるまでは笹も剥き出しの藪漕ぎだった。 岩峰は岩が露出した状態。 雪の状態がよければ右の大ルンゼに取り付くことも可能だが、岩峰を避けては 西尾根ではなくなってしまう。左の樹林の取り付き点に赤布を付けた。 2)モミソ沢アイゼントレーニング 2010年11月14日(HM・SK3 参加) 副会長二人を従えてのトレーニング。前爪を使うトレーニングには良い。 3)霞沢岳西尾根(1960m付近まで往復) 2010年11月20日(全員参加) 急登及びプチ岩稜が西尾根に似ているので良いトレーニングになると思ったが、時期が早すぎた。 厳しい藪漕ぎをするも2000mまで雪が出てこなかった。 稜線に上がっても期待出来ない為、そそくさと下山。失敗した。 4)赤岳主稜 2010年12月5日(全員参加) 三人で組む初の登攀となった。互いの力量やロープワークを確認した。 5)五竜遠見尾根(G2稜の先まで) 2010年12月11日−13日(全員参加) ラッセルの練習と体力トレにはなったが、まだ積雪は膝下程度だった。山頂ア タック日の前夜から雪が降り始め、不安定な新雪に阻まれてG2稜より先には行けなかった。 色々と反省の多い山行だった。 6)西穂高稜線偵察(ロープウェイで西穂山荘から山頂ピストン) 2010年12月18日−19日(全員参加) 下山路確保の為に稜線を歩いておく事にしたが、思いもよらず山頂から西尾根全貌が良く見えた。 また丁度西尾根を上がってくるT大パーティがあり、様子を聞くと下部はまだ藪漕ぎらしい。 年末までに雪が積もるのか不安になってしまったが、後に要らぬ心配となる。 西穂山荘前で肩絡み・腰絡みの練習をした。支点の聞き具合も確認できた。 (ここまでHM記) ●感想 西穂は残念でしたが、個人的には、訓練を含めたこの2か月間はとても充実した山行でした。 パーティーメンバーはもちろん、見守って下さった会の皆さんに感謝です。 (KK ・車輌担当) 1P目の困難から完登の可能性は厳しい状況だったもの、行ける所まで行けたのでほぼ完全燃焼できたと思います。 しつこいですが岳人記録時の雪は我々の時より浅かったです。 スピードの為に2550コルまでほぼノーザイルで行く判断は妥当とは思いません。 テン場で弱層テストをし前進を止めた判断は極めて妥当だと思います。 テン場を切った後テント内で皆の疲労の色は濃かったものの明るさは失わず馬鹿話もできてGOODでした。 反省材料は個人的に沢山あり有意義な山行でした。 天気は見方してくれましたが雪が多かった…致し方なき撤退だと思います。 (SK3 ・記録担当) 正月山行での初リーダーをすることとなり、いつも以上に緊張を強いられた。 まして、自分よりはるかに経験豊富とはいえ、入会まもないSK3が一緒である。 本番までの2ヶ月でパーティとしてまとめあげ、3人の意気を合わせなくてはならない。 また当然ながら、なんとしてでも3人五体満足無事下山しなければいけない。 私の緊張と意気込みに降伏したのか、はたまた頼りないリーダーを充てに出来なかったのか、 メンバーの2人は多方面に渡り手助けしてくれた。 結果は登頂とはならなかったが、良い条件とは言えない中で各々が危険回避能力をフルに活用し十分に戦ったと思う。 これまでの2ヶ月は色々な形で今後の我々の力となったはずであり、またそう信じたい。 無事下山出来た事にメンバーには本当に感謝している。 雪が落ち着いたら、JPから山頂までを結びに行こう! (HM ・リーダー担当) |