2012/12/28-31 蝶が岳(初めての雪山)

「あぁ、人生初の野宿がこうゆう形で訪れるとは…」

21時半前に横浜を出発し高速をひた走ること数時間。 途中から強くなった雪のため交通規制が入り目的の松本より手前で降ろされ、そこからの道のりも雪と凍結に振り回されることになる。 何台もの事故車や、立ち往生した車を見た。「山に辿り着くことすら出来ないんじゃなかろうか?」そんなことも頭を過ぎる。 沢渡に到着したと思った途端に車が雪にハマり、30分ほど格闘しパーティーの絆を深め合うという前夜祭を行った後、やっと体を伸ばして眠れると思ったところで隊長が発した言葉は「ここで(寝袋しいて)寝よう」だった。 こことは、足湯のベンチ。Y野さんも「あぁここなら温かい」みたいなことを言っている。

そうか、そうゆうものなのか。

冒頭の言葉を思いながら、もそもそと寝袋に収まり寝たんだか寝てないんだか分からないまま朝を迎える。

*

何もかもが初めてで、右も左も分からない雪山。 沢渡から釜トンネルまでタクシーを使ったことも、釜トンネルの入り口に警察の山岳事務所があることも、雪山に登る為の最初の道のりが真っ暗なトンネルなことも全てが新鮮で驚く。 1.3k程のトンネルを抜け、所々でA木さんから雪崩の起きそうな場所や気をつける点などを教えてもらう。 雪山を登れるようになるためには「わー、雪キレイ☆」なんてことだけをいつまでも言ってはおれず、ちゃんと危険性も習得していかなくてはいけない。と改めて気付かされる。

ゆるゆると続く雪道を徳沢まで進み、屋根と壁のあるトイレにしばしの別れを告げ、山へ。 初っ端からかなり角度のある道を登って行く。登ることに必死になって足元ばかり見てしまっていると、A木さんから「時々道の先を見て、道のりや状況をなどを確認しておくように」とアドバイス。 先を見てみても「まだずっと上りだ…」とか「先が見えない…」と絶望しかけるのだけど、歩いているとそこに辿り着いている。それの繰り返し。

前の人たちが残した足跡をなぞりながら歩いて行くものの、時々雪を踏み抜いてしまう。これによって無駄に体力も精神力も削がれてしまう。 緊張しながら歩いていると、知らぬ間にどんどん息が浅くなってしまいA木さんから深呼吸を促され、深呼吸をしながら登っていく。

息を吸いながら右足、息を吐きながら左足。 そんな風に決めて登っていくと、なんとなくリズムと勢いで上ることが出来る。 ヒーヒーフーフーいいながらの登山。前を歩いている人はさぞかし煩いだろうな、と思いながらもひょっとこみたいな口で息を吐く。

そんな中でも視界に入ってくるものは、木々の葉の上に積もった雪が数時間前から顔を出した太陽に溶かされ無数の水滴となって反射して光り輝いている姿や、時折木々から落ちてくる雪の作る光のカーテン。 ここでしか愉しむことのできない景色なんだよね、と嬉しくなる。

少し日が寂しくなった頃にテント場に落ち着くことになった。先に着いていたY本さんたちのテントがお隣さんで心強い。

初めての雪から作る水や、アルファ米、山食に興奮しながら食べた。 日常生活の中で雪の上にビニールをしいて寝ましょう。と言われたら正気の沙汰とは思えないけど今夜はそれが寝室になる。 真っ暗な山奥の森の小さなテントで静かな夜を迎える。

 

二日目

ワカンを付けて出発。 ワカンがあれば雪を踏み抜いて無駄な体力消耗をすることも無く、苛つきを抑えることも出来る。 精神衛生上とてもよい。

いくつかの坂を上り、下った頃、木々がどんどん小さくなってきた。 山頂らしきところへ至る緩やかな丘が急に視界に広がり、足元は木々の上に積もった雪の上を歩いているらしく、ふわふわして時折はまる。

風を遮る物が何も無いので、雪が横から降ってくる。 岩に変わった足元では、雪は岩に積もることも出来ずに岩に沿って線を描きながら飛ばされて行く。 結構な悪天候が面白い。 晴天の場合、眺めがとてもよいらしいのだけど、それを知らないので吹雪いていても楽しい。

山頂で一枚写真を撮ってもらい、山小屋へと向かう。

冬季の山小屋も初めてで、隠れ扉のような、横に突き出た煙突のような場所から四つんばいになって入って行くのも衝撃だった。 (中にテントを張っている人がいてそれにも驚いたけど) 休憩を終えて外に出ると、さっき以上に吹雪いていて雪が顔に当たると無数の針が当たっているように感じる程痛い。そして真っ白で先があまり見えない。 はぐれたら死ぬな…、と思いながら必死でA木さんに付いて行った。

下りは楽なはず…と思っていたのものの、雪が雨に変わり絞れるほどに手袋が濡れてきたところに急な下り坂がやってきた。 ワカンを脱いで降りて行く。

ここを降りないと帰れないという切迫感と、一歩踏み外したら滑り落ちて木に激突しそうな恐怖心、 上手く降りれないことの苛立ちを抱え、雪だるまのようになりながら徳沢まで降りきったときは山頂を踏んだときよりも達成感を感じた。

しかし、まだまだきついことは続くもので、体力も精神力も使い切り濡れそぼった体を引きずりながらビジターセンターまで歩くという苦行が待っていた。 大きな変化が無い道をひたすら必死に歩く。雨は相変わらず体を重くし、道も悪くする。そして時間は待っていてはくれない。

後ろからはA木さんがフォローしてくださるが、私の脳内では、捕らえられた捕虜が行進しているイメージしか出てこない。 脳内だけは活発に色々ぐるぐるさせながらA木さんオススメのビジターセンターに到着して、テントの中で濡れたウェアを乾かし、疲れた体に食料を詰めた。

 

三日目

寝袋での眠り方がよく分からない。個人的には潜り込んで眠るのが落ち着くのだけど、それをすると結露が発生し夜中に自作結露に起こされるという、なんとも切ない結果になる。 何度か起こされたものの、だいぶ体力が回復した。服も手袋も乾いているのが嬉しい。 後は2.3時間歩けば温泉が待っていると思えば体がより軽くなる。

*

とても楽しかった。 というのが率直な感想で、また登りたいと思う。

二日目は最悪な天候だったらしいのだけど、それでも楽しかったし、最悪を最初に経験しておけば次回はもっともっと楽しめるということなのだから、こんなよいことはない。

A木さん、Y野さん、本当にありがとうございました。