・12月31日(水)
前日からテント泊していた新穂高温泉駐車場を出発。 各自、自販機からテルモスに暖かいお茶を補給する。 ここが最後の人里。時刻はAM7:00過ぎ、どんよりした冬の曇り空にパラパラと小雪が舞う。 これより4泊5日(予備日込み)の笠ヶ岳山行が始まる。 林道に沿って歩きワサビ平方面に行く分岐点で左折、川を渡り東北支稜の取り付を目指す(写真)。 雲が低く垂れ込めていて上空が見えず取り付きの見分けが難しい。 上に行くトレースは皆無。何とかそれらしい箇所を見定めて膝までのラッセルをしながら登り始める。 進むにつれて雪は深くなり傾斜の急な所では身長を越えるラッセルに思わぬ時間をとられる。広さこ尾根を目指して登り続け1600m付近で、時折、部分的に雲が晴れ上がり、隣りの第一尾根が堂々とした姿を表して気持ちが良い。交代でのラッセルを延々と続ける。止まっているとラッセルの反動や蹴り込みで雪面が揺れるのが感じられたが雪崩の心配は無かった。1日目は目標地点「広さこ尾根」に少し届かず、適当な場所を見つけてテントを張る。 時は既にPM16:00を過ぎていて天気図は取れないまま1日目を終える。 ・1月1日(木) AM4:00頃起床。風も無く、夜間を通して冷え込みは弱かった。テント幕も凍っていない。 世間では正月だがここでは雪を溶かし食事、すぐにテルモスに紅茶を淹れてAM6:00過ぎに出発。 相変わらず続く深いラッセルと所々で突然抜け落ちてポッカリと穴が開く雪面に 苦労しながら慎重に進むこと約4時間、漸く広さこ尾根に到着した。休憩して一息いれる。 昨日よりは天気が回復しており周囲の尾根が見えるだけでも気分が良い(写真)。 雪庇に気をつけながら前進してゆくと、遠くにかすかな人の声が聞こえた。 しばらくすると2パーティとすれ違い、ここからは彼らのトレースを利用する事になる。 自ずとペースが上がりトレースの存在価値をたっぷり味わう。 2日目はクリヤの頭手前に適当な幕営地点を見つけて突貫工事を始める。 PM3:30には幕営完了、山行前は先行きの天気が下り気味であるとの予報であった為、 本日は確実に天気図を取る準備をする。結果は小凶。 悪天候に捕まる前に下山が得策と判断して明日を目処に後退を計画する。 ・1月2日(金) AM3:30過ぎに起床。夜空は星が瞬き天気が良い。 風も無く稜線にしては天候に恵まれていると思う。 AM6:00前に一次隊出発。昨日、クリヤの頭の手前に急な岩場の斜面を見つけていたのでロープを張る。 岩場をユマールで越えるとクリヤの頭が見え始めた。 雪崩れそうで嫌な斜面をトラバースして微かに残るトレースを追いかけながら 状態の良い斜面を探して登る。 ここまで来ると風は強く雲が掛かり雪が降ると冬山の感じが出て非常に良い。 AM9:35にクリヤの頭に登頂。雲がとれていたので眼前に迫力のある雷鳥岩、 その遥か向こうに漸く笠ヶ岳が見えた(写真)。 右手に槍ヶ岳〜穂高連峰を見渡し下山を開始する。 残していたテントを撤収。トレースを辿りつつ下りると1泊目の幕営地を通過。 昨日の出来事とは思えないほど、少しだけ懐かしさを感じながら更に下降する。 快調に高度を下ろして行きあっけない位に取り付まで下る。 林道を歩いてPM4:00頃には新穂高温泉に到着。 今年の冬山山行は終了した。 サブリーダーとして冬合宿に参加して 私は計画段階でY君とルートの下調べを担当した。 参考資料として日本登山体系、インターネットのwebページ(抜戸 岳南尾根、及び大学山岳部の記録2点)、同じくwebから岐阜県警の 資料数点、同警地域課山岳係からの返信メール、1/25000地形図 などを使用した。 調査の項目はルートの全体(地形図書入、アプローチなど)、危険個 所の把握、テントスペース、過去の災害状況などである。 調査の実際についてであるが、登山体系から広サコ尾根を特定できたが、東北支稜に ついてハどの資料も数行しか触れておらず、知り得た事は傾斜がそこそ こ急なこと、ところどころ露岩がある、広サコ尾根のずい分手前にTS がある、アプローチはどうやら左股林道から堰堤を渡り一ノ沢に向かう ことくらいのものだ。 広サコ尾根のルート把握では、クリヤの頭の通過で夏道 の通り直下の斜面を左にトラバースし錫杖からの稜線に出るものと、右の 第1尾根にトラバースするものの2通りあること。雷鳥岩の通過については笠ヶ岳への稜 線では夏道通りと解釈した。これは岩峰を巻く、つまりトラバースする ということで、雪崩の危険度が高い、どうするか?自分にとって未知の 部分だが、この疑問点を明らかにするため熟練者に教えをいただくのを 日常の忙しさにかまけて忘れてしまった。これは反省点だ。 危険個所については、2200m付近の岩場 クリヤの頭下の通過(トラ バース) 雷鳥岩の通過、広サコ尾根から笠ヶ岳までの稜線(雪庇、トラ バース)などが考えられた。 幕営地については、東北支稜内 広サコ尾根上2箇所 雷鳥岩から2つ目 のコルが幕営に適している。 最後に過去の災害については探せなかった。 さて登山の実際についてだが、取付までの懸念であった渡渉点 これは 解りやすかったと思う。トレースに導かれたという幸運もあるが、林道が 大きく迂回をし ここしかないという感じだ。 尾根の方向、一ノ沢の出会、はるか前方の二股、そして名を呼ぶにふさわ しい迫力満点の第一尾根、背に抜戸南稜の末端 以上のことから東北支稜 を確定した。 実際の東北支稜は地形図から受け取れるほど尾根〜っとしたものではなか った。うねうねと曲がりくねっており、誘い尾根もあった。調査の段では、 個人的に単純明快一直線としていたのだが。後日、地形図を凝視していた ところ、気づくのが遅いよと言われそうだが、ちょこまかと曲がっていて、 あるかないかの支尾根の派生(等高線の変化)が読み取れた。屈曲点はつま り分岐点だ。このあるかないかの等高線の変化やちょこちょこっとした曲 がりも、実勢はとてもダイナミックなものだった。実勢と地形図の一致を みる。これは、自分的には大きな課題と思っている。様々な山での様々な 山行、地形図の凝視、相当の経験をつまないと実勢の規模をイメージでき ないのでは。 クリヤの頭付近の斜面はだだっぴろくスキー場のゲレンデというイメージ。 いい天気でうらうらと暖かく、身近な印象を受けるが、雪崩るにはちょう どよい斜面とのこと。なるほどこういったところから雪崩の危険度が高く なっていくのだなと再確認した。下山中日照によりゆるんだ雪の表層が崩 れだし青くなって避難するという一コマもあった。 山行はクリヤの頭までで下山となる。リーダーは明日からの天候の悪化を 鑑み、サブの私を含めたメンバーの実力も考慮し決定した。極めて適切な 判断だ。判断を下す勇気 押すも引くも同じだ。勉強になる。 最後にサブリーダーの立場として登山行動の全体をみてみたい。 リーダー以外のメンバーは 私を含めて経験が浅い 又はない。よって隊を 進軍させる、つまりラッセルワーク、ルートファインディング、危機管理など、 隊を機能させ得なかった。次につながる課題だ。 |