昨年末に子供が生まれたおかげで山からはすっかり遠ざかっている。当然、GW
の山行は 無理だろう、と思っていたが、許しを得て北アルプスに行くことにした。ドタ
キャンの 可能性があるので単独にならざるを得ない。候補は(1)爺ヶ岳〜唐松までの
後立山縦走、(2)東鎌尾根から槍ヶ岳、とした。初め(1)のつもりであったが、単
独で初め てのコースは心配だったのと、だんだん(2)が魅力的に思えてきたことから迷
わず(2) に決めた。
コースは中房温泉から入って、燕岳〜大天井岳〜西岳〜東鎌尾根〜 槍ヶ岳〜 大喰岳西尾根〜槍平〜新穂高温泉というロングルートである。このコースは2 年前に3人で行ったが水俣乗越で敗退していて、簡単でないことはわかっている。 今回、単独 で成功すればすばらしいことだと考えた。 しかし、結果は大天井で敗退、 予定の表銀座 を常念方面に変更する始末。 確かに辛かったのと、そちらのコースも初めてでそれなりに楽しめ たので、 歯軋りするような後悔はない。雪の東鎌尾根への思いは強くなった。自分の課 題として もっとまじめに考える必要がある。 5月2日 中房温泉12:10〜14:50合戦尾根15:05〜16:10燕山荘(泊) あずさ3号で雨模様の八王子を出発したが、北に行くほど天気はよいというの で安心で ある。穂高駅では曇っていたが雨になる気配はない。穂高駅でタクシーの乗合 ができる といいなと思っていたが、うまく行かなかった。バスは空いていてよかったが、 タクシ ーの方が早い。バスには6人ほどの登山者が乗っていたので、積極的に声をか ければ乗り合いもできたと思うが、私の性格では無理か。バスの到着予定時刻は11:55 だが、 それよりだいぶ早く着いたようだ。ゆっくり支度して最後に出発。 初めは雪が無いが、 徐々に出てくる。最初が急で、なだらかになると第一ベンチである。ベンチは 完全に出 ていた。第2ベンチまで楽で、そこまでに20人ほどを抜いた。その後は急坂 で雪も多 く疲労する。人もいない。ずっと曇りであったが、合戦小屋辺りからガスって きた。気温は高い。合戦小屋はまだ営業していた。合戦沢の頭からけっこう長く、しんどい。 主稜線に出ても風はない。視界も悪く、サングラスの必要もない。燕山荘には 5張ほど のテントがあった。先住者が掘ったと思われる区画に幕営する。燕山荘にはた くさんの 宿泊者がいたが、明日は数百人が入るという。明日の天気を心配しながら19:00 過ぎに 寝た。 5月3日 3:30起床、テント場5:20〜9:25喜作レリーフ9:40〜10:50大天井岳11:20〜16:00常念乗越( 常念小屋) 前夜、燕山荘のテレビで見た天気予報によると、今日は午前中は曇りで午後に なると晴れてくるという。しかし、3:30に起きてみると満天の星空で天の川も見えて いた。俄然、やる気が出てきて今日中に少なくとも水俣乗越まで、うまく行けば槍ま で頑張ろう、などと思ってしまった。結果から見ればトホホ…、である。 とにかく、今日の行程のみならず、すべての山々が見渡せる。大天井までは1 時間で 行けそうに見える。期待を持って出発した。歩き出してすぐの平らなところで 出発の準備をしている中年男2人組にあった。おそらくここにテントを張ったのだろう。 彼らは東鎌から槍を越えて北穂まで行くという。東鎌の仲間がいて少しホッと した。蛙岩には左右から巻いているトレースがあったが、いずれも危険である。真ん 中に近づくと穴が開いていたので四つん這いになって通過した。蛙岩を抜けると雷鳥 が待って いた。大下りを降ったところまでは順調だったが、その後、やわらかい雪に苦 労する。 腰まではまることもしばしばで、大天井の基部になかなか着かず、体力は消耗する。 大天井の登りはホントに辛かった。頂上の祠は出ていたが、大量の雪が残っていた。 2年前よりかなり雪が多い。その上、気温が高く(今日の松本の予想最高気温は 28℃で ある!)、雪の状態が悪い。何と、ここまで5時間半もかかってしまった。今日 の行程 では、ここまでは問題なく、ここから、そして西岳からが核心であるのに、こ れでは今日中に西岳に着くことも無理である。この先にはトレースはなく、スノーリ ッジが続 いていた。 どうするか考えていると、2人組が到着。彼らも予想を超えて時間 がかかっ てしまったことを嘆いていた。私は、予定のコースを行っても槍にたどり着く のは無理、よくてあと2日使って水俣乗越まで行って、槍沢から上高地か? と先 を読んだ。それなら、常念から蝶へとつないだ方がいいと思えてきた。 こういうことがないと、GWにそのようなコースは計画しないだろうし。 ということで、彼らに予定変更を告げて常念に向け て出発(結局彼らも同じコースに変更したようだ)。 できれば今日中に常念乗越まで 行きたい が、ここまでの時間を考えると油断できない。とはいえ、トレースもあり、予 定のコースに比べればはるかに楽なはずである。しかし、やはりこのコースも辛い ものとなった。腐った雪に足をとられて消耗する。まったく人気が無く常念乗越まで 人を見な かった。途中、何度もテントを張ってしまおうか、と思ったが、こんなところ でテント を張っていたら永遠に下山できないではないか! やっとのことで常念乗越に 着いても うれしくない。はっきりと楽な方に予定を変更したのに体力、気力とも限界で、 自分の 実力の無さに気分が落ち込んでいた。靴も中まで濡れて不快である。食欲も無 かったが、カレーを食べて寝た。隣のテントの賑わいが慰めになった。 5月4日 3:30起床、 テント場5:20〜6:35常念岳6:45〜10:10蝶槍〜10:55蝶ヶ岳11:20〜13:20徳沢13:40 〜15:30上高地16:00(バス) 隣のテントの声で目を覚ますと3:30になっていた。今日もいい天気だが、出発 前はまだ 昨日の憂鬱を引きずっていた。暗くなる前に徳沢まで行けるだろうか…。常念 の登りは 初め辛いが、分岐から楽になる。頂上までスピードは上がらず、前を歩いてい る老人に も追いつけない。 ところが、頂上についてこれから向かう道が一望できると不 思議にやる気が出てきた。常念の下りは急で、岩も出ていて気が抜けない。左側には ずっと雪庇があり、所々大きな亀裂があった。降りきると歩きやすくなり、ここから ペースが 上がった。常念に向かう人も多く何だか勇気付けられる。 蝶槍への長い坂を登 りきれば今日の登りはほぼ終わりである。蝶槍に着いて自信が出てきた。蝶ヶ岳で長 塀尾根から来た人に話を聞くと、トレースはバッチリで問題なさそうである。まだ油 断はしな いが、今日中に帰れるかもしれない、と思い長塀尾根を駆け降りた。 徳沢に着いた時に はかなり消耗していたが、やはり今日中に帰りたいので上高地に向かう。ここ からはほとんど登山者に会うことはなく、大勢の楽しそうな観光客の中を行く。小梨 平で荷物 を整理してバスターミナルに行くと、ちょうどバスがあった。今日の賑やかで 快適な道々からすると、昨日の燕から常念乗越までの孤独で真っ白な世界が夢のよう である。 |