南アルプス/黄蓮谷右俣

2008年10月12日〜13日


坊主ノ滝(35m)は直登は無理で、右から巻く


 黄蓮谷は私にとって因縁のある沢である。初めて挑戦したのは、もう15年以上前のことだ。まだ沢を始めて間もない頃である。当時、名古屋に住んでいた私は、近くの鈴鹿の沢に通い、自分ではそれなりに力がついてきたと思い始めていた。しかし、所詮「井の中の蛙、大海を知らず」である。初めてアルプスの沢に挑んで、そのスケールの大きさにショックを受けた。この時の計画は、尾白川を下から遡行し、黄蓮谷に入り、さらに甲斐駒ケ岳から鋸岳を縦走するという壮大な計画であったが、結果は見事惨敗であった。荷が重かったこともあるが、技術的にも未熟で、尾白川中流域で予想以上に時間を要し、さらに途中で雨による増水もあったりして、千丈ノ岩小屋に着いたのは暗くなってからであった。もうヘトヘトで、翌日に黄蓮谷をやるだけの気力は残っていなかった。 結局この時は沢を諦め、五合目に上がり黒戸尾根からの甲斐駒〜鋸岳への縦走に切り替えた。

 それから何年かして再び挑戦することになった。 この時は万全を期して黄蓮谷に狙いを絞り、五合目からの沢に入った。そこまではよかった。 しかし、最初の坊主の滝の巻きからすでに失敗していた。 そのまま左俣側の斜面に入りこんでしまった。 これが原因で結局高巻きから沢に戻れなくなり、そのまま尾根を上がらざるをえなくなってしまった。 延々と続くヤブこぎ。ハイマツの上を這うように歩く。登山道に出たときはもうヘロヘロだった。 屈辱的な敗北であった。二度の敗北。私にとっては鬼門とも言える沢であった。

 あれから月日は流れた。自分の中で無意識のうちに避けていたかもしれない。 雪童に入ったものの、大きな沢はやっていなかった。シーズンも終盤である。 来期は、五級レベルの沢をやりたいという思いがある。 それには、この黄蓮谷は避けて通れない沢であるような気がしていた。 幸いにもFさん、K氏とパーティを組めることになった。メンバーは申し分ない。 かくして三度黄蓮谷に挑戦することとなった。



 10月12日

 朝6時起床。7時に竹宇駒ケ岳神社のある駐車場を出発。 この日は、黒戸尾根を五合目までに上がり、そこから沢に下降し、黄蓮谷に入るまでの行程である。 一見短い行程のようだが、黒戸尾根はとても長い尾根である。 五合目までといっても結構標高差はある。Fさんのスピードに合わせ、無理のないペースで歩く。 樹林帯の中の単調な登りである。 途中にある刃渡りと言われるところが唯一視界が開け、気分のいいところである。 紅葉も見頃を迎えている。Fさんも頑張ってくれて、五合目まで順調に登ることができた。

 五合目からの下りは、部分的に悪い箇所はあるものの、踏み跡はしっかりしているし、 赤テープも随所にある。以前は赤テープはほとんどなかったように思う。 途中私だけがルートを外して怖いところを下りるはめになったが、それ以外は問題なかった。 沢に下りて対岸を上がったところが丁度目指していたBPであった。 少しは沢を歩くと思っていたので、なんか拍子抜けであるが、そこで間違いないようだ。 ガイドとかでも紹介されているように、樹林の中の快適なところである。 まだ12時。思っていたよりも早く着いてしまったが、この先BPがあるのかよく分からないので、 この日はここまでとする。 時間があるので、坊主ノ滝を下見に行ったり、焚き火で遊んだりしてゆったりとした時を過ごす。


10月13日

 この日は、沢から山頂に抜けて黒戸尾根を一気に下るというとても長い行程である。 気合を入れて朝6時に出発。最初の坊主ノ滝は右側から巻く。 下見をしているので迷うことなく進む。 巻きの最後で沢に下りる箇所が少し悪かったので、私とFさんは10mほど懸垂下降する。 続く15m滝は右のクラックを登ることにする。 ここは傾斜もあるので、念のためザイルを出すが、クラックをうまくつかえば問題なく越えられる。 その上が二俣である。

 右俣に入り、最初の滝は巻くが、その先の滝は直登できて楽しいところである。 だんだんと傾斜が出てくる。ほどなく大きな滝が姿を現す。 いよいよこの先は200m続くと言われる奥千丈ノ滝である。 ここもできるだけ水流沿いに行こうとするも水が冷たい。 その上、凍っている箇所が出てきた。 そのため水流の中のホールドやスタンスを使えず少々苦労する。 途中巻き道を使いながらも、ほぼ水流に沿って登る。 傾斜がきつくなったところで水流を避けて 比較的傾斜の緩い右岸の乾いたクラックを上がり潅木帯に入る。

 ここをまっすぐ抜けようか悩んでいたところでK氏から、 この先はまっすぐ行くとかなり上まで行かないと沢に下りれなくなるので、 右に行くべきだとの指摘が出る。たしかにこのまま行くと水流から離れすぎるかもしれない。 指摘どおり軌道修正し、水流に向かってトラバース気味に右上する。 潅木の中を苦労しがらも水流に戻る。

 あのまま上に行っていたら、少なくとも1時間は余分に時間がかかっていただろうし、 体力も消耗したに違いない。ナイスフォローである。 水流に戻るも凍っている箇所が多く、なかなか思うようには登れない。 潅木をうまく使いながら高度を上げる。 このあたりは傾斜があり、しんどいところだ。滝の上で小休止。 このあたりから水が涸れてくる。滝は凍っている。

 最後の難関、奥の二俣上の三段60m滝が姿を現す。 ここの直登は難しそうだ。巻き道を探しながら進む。 行ってみると、踏み跡がしっかりついていた。部分的にヤブはあるものの一気に巻けそうだ。 このまま尾根に出てしまうのではと不安になり始めた頃、斜面を下る踏み跡に入り、再び沢に戻る。

 あたりは源頭部。もう一踏ん張りである。沢をひたすら詰める。 このあたりはヤブもなく登山道のようにしっかりしているが、息が切れ苦しいところだ。 Fさんも疲れているようだが、頑張って歩いてもらう。やがて、尾根に出る。 どうやら甲斐駒ケ岳から鋸岳に向かう登山道のようだ。 5分ほど登ったところが甲斐駒ヶ岳の山頂であった。(遡行時間:約7時間)

 あとは黒戸尾根を下るだけであるが、先は長い。 できることなら暗くなる前に下りようということで急いで下ることにする。 皆で頑張ったかいあって17時過ぎに駐車場に到着。まさに滑り込みセーフであった。


 この時期の遡行は、紅葉という点では適期かもしれないが、 水が冷たいため思い切ってシャワークライムができないし、 凍っているところを避ける必要があったので、その分本来の沢登りができなかった。 その意味では、この沢は暑い夏の時期に水流の中を登るのが面白いように思う。 できることなら日程を2泊にして、尾白川中流域から遡行したいところだ。

 2日目はかなりきつい行程であったが、Fさんは最後まで本当に頑張って歩いてくれたと思う。 また、K氏のルート判断も的確であった。 パーティのメンバーに助けられながら、3度目にしてようやくの完登であった。 (記 UK)


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