笠ヶ岳南西尾根

2010年8月11日〜8月15日


ヒアケ谷と思って入った沢はホウガ谷だった

 笠ヶ岳周辺の積雪期登山の下見として、ヒアケ谷から南西尾根を経由し、笠ヶ岳、槍ヶ岳、穂高と大縦走の予定だった。 リーダーのOさんは笠ヶ岳周辺に強い思い入れを持ち、皆その気持ちに賛同しこの大縦走計画に挑んだのだった。

8月11日 曇り
笠谷ゲート13:30〜ヒアケ谷入渓点16:00〜笠谷ゲート17:40

 新穂高温泉に午後12時頃に到着するが台風接近により停滞とし目的のヒアケ谷を偵察する。 林道には熊らしき獣の糞、足跡もあり肉球が見られる。 周辺を観察しながら林道を突き進むと小熊が草むらから飛び出し私たちの10m先を横切り山へ上がっていった。 近くに親熊がいるに違いない!注意しながら通過した。

 一時間半ほど歩き、涸れ沢を通過し、林道を橋渡しするようにせきがあり、そこに沢があった。 さらに林道を進むと沢の出合いに赤布があり入渓するとすぐ高さ15mくらいの滝があった。赤布の沢の先も林道はまだ続いていた。


8月12日 雨

 台風上陸通過の為、停滞。 栃尾温泉露天風呂に入浴し、足湯にも浸かりのんびりした。


8月13日 曇り
笠谷ゲート5:30〜ホウガ谷入渓点6:40〜南西尾根13:00〜テン場18:15

 停滞が続いた場合や沢の水量によっていくつかの計画案があったが、 やはりヒアケ谷から入渓し、笠ヶ岳を目指すことにした。 入渓点は堰状の橋になっており、ここから入渓した。 すぐに高さ10mくらいの滝があり左岸を高巻きした。 その後数メートルの滝やナメ滝、階段状のナメなどを通過するが沢はかなり荒れているように思った。 ゴルジュを過ぎたところに40mのシャクナゲの滝がないことに気付くべきであった。 早くも水量が減り、水は涸れ上部に尾根が見える。沢を詰め上がると標高1700m程の笠ヶ岳南西尾根に出た。 標高から私達はホウガ谷を遡行していたことが分かった。 尾根はヤブが深く、笹を掻き分け樹林帯を進む。いくつかピークを踏み、あたりの景色が墨絵のようにぼんやり見え笠ヶ岳を目視できた。 5時間強に渡るヤブこぎ、総行動時間12時間半行動で疲労困ぱい。 標高1,965.8m三角点を見つける。ここを下りたコル1,950mに幕営する。4テンが張れるスペースしかないがほっとした。


8月14日 雨
標高1,950mテン場5:45〜標高2,350mテン場15:40

 夜間から風雨が激しく明け方も視界不良。様子を見て5時半過ぎ出発する。 ヤブはさらに深くハイマツやシャクナゲの曲がりくねった幹が進路を邪魔し、 雨は次第に叩き付けるように降り身体は冷え体力を消耗させた。 ガスで数メートル先が視界不良の中、獣道を見つけ出し、 こまめにコンパスで方向を確認し修正しながら深ヤブの尾根を突き進む岡崎リーダーの頼もしい行動が私達に勇気を与えた。 ヒアケ谷の詰めを通過すると、西尾根が目視できる2,417.4mのピークを確認した。 ここを下りたコル2,350mは足首ほどの草丈の草原のように広い尾根だった。ここを過ぎると岩場でテン場はないため早々に幕営した。


8月15日 曇り
標高2,350mテン場6:30〜笠ヶ岳11:30〜笠ヶ岳山荘12:00〜新穂高温泉18:20

 相変わらずガスがかかっており視界不良。岩場に突入。 10数メートル懸垂下降する。右側が切立った岩場となっている斜面のハイマツの上をトラバースするが、 前方を樹木が遮ると、切り立った岩場を通過しなければならず、ハイマツをつかみながら慎重にトラバースした。 雷鳥が私達を迎えてくれようやく登山道に合流するとほっとした。笠ヶ岳山頂標高2,897m、笠ヶ岳山荘に到着。 抜戸岳から笠新道で新穂高温泉に下山した。


感想1
 未知の山域という言葉に冒険心をくすぐられ挑んだ今回の山行だったが、くすぐるなんて可愛いものではなく冒険そのものだった。 ほとんど情報のないエリアでの悪天の中の地図読みと藪こぎ。落ちれない場所での濡れた笹のトラバース。 コッフェルに雨水を貯めての水確保。気弱になったら山に跳ね返されてしまいそうで、気力体力集中力をとぎらす事が出来ない。 でもこの緊張感が、山に入っているなぁーって実感を与えてくれる。 笠ケ岳から延びる一般道にぶつかった時は、メンバーで協力して抜けきれた事に本当に嬉しかった。 同時にがっちり握手をしたOリーダーの手元を見てショックを受けた。 手袋の手のひら側にはほとんど布が無く、わずかに指に絡み付いているだけだった。 それは終止藪の先頭に立って安全を確保してくれた格闘の跡だった。
 今回の山行は山の難しさ厳しさを改めて体験したものだったが、Oリーダーの下で貴重な経験が出来た事に感謝している。 又、少し強くなれた自分に嬉しさも感じている。ルート研究と体力作りをしっかり行った上で、再度挑みたい山域だ。 その際にはチラリとしか見せてくれなかった山の姿を、存分に見せてもらえたらなあと思う。(HM)

感想2
 これほど過酷なヤブこぎはないであろう経験でした。 ガスに覆われた山中を手足傷だらけにし、虫に刺されまくり、直立歩行より這いずるように前進する時間の方が長く、 野生動物って過酷な生活しているな!すごいよ!など思いながら、 美しい北アルプスばかりではないことを知り、自然の厳しさをまのあたりにし、 自分自身の反省や希望を持つことができた貴重な体験だったと思います。 実は私はまだ槍ヶ岳を踏んでおらず、今回計画の一番の楽しみだったわけですが、もっと勉強し力をつけて山に臨みたいと思います。(YT)

感想3
 今回の南西尾根からの笠ヶ岳の偵察山行は、予定より多くの藪漕ぎをすることになりました。 雨の中、朝から晩まで藪漕ぎをして、普通の山行では考えられないほど山を観察することになり、貴重な経験になりました。
 藪は藪三昧で、藪が入り組んだ所は、気合で突破するしかなく慣れました。 ハイマツも最初はうまく漕いで行こうと考えていたのですが、最後の方は、適当に木に乗りながら越えられるようになりました。 これも慣れたという感じです。さすがに、濡れた笹の下りは沢靴だとよくすべります。
 それから、獣道をうまく使うことが時間短縮になり、この獣道を見る習慣がつきました。 何よりの収穫は、今までになく山を見て山を体で感じたことで、読図だけでなく総合的な山歩きをする力が上がったと思います。 「岩と雪」ではなく「沢と藪」的な山行でした。(KY2)

感想4
 これほどに地図とコンパスを見た山行は今までしたことがない。 南西尾根の全体像も見えず他の尾根や谷との関係も見えず笠ヶ岳との繋がりも見えず、 ただただコンパスと地図を見て方向を探す山行で、体力より頭が疲れました。 笠ヶ岳は僕達にいろんな事を教えてくれました。これからこの山域で活動する為の必要な事が満載でした。 林道からすべてを初見でパーティーで判断するとても面白い体験ができました。(OK)


総括
 冬の笠ヶ岳に取り組みたく、その偵察と山域を体感する目的で今回の山行となった。 今回の山行が与えてくれた物は多くあり、これからの活動の参考になる良い経験でした。 山行の内容は、一日早く下山する予定のメンバーを下山させる事ができずリーダーとして先の見通しの甘さを反省しています。 頭の中ではいつヘリを呼ぶか、そんな事が何度もよぎりながらの行動で難しい判断の山行でした。 今回も山に助けられた山行で追いつめられると、こっちだよと教えてくれて山に守られて下山できました。 これから先、この山域で活動が少しでも出来るようにしていきたいと思います。 留守宅等にご心配をかけリーダーの力の無さを痛感しております。 メンバーの皆さんに感謝いたします。有難う御座いました。(OK)


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