剣岳・真砂沢合宿

2010年7月31日〜8月4日


自らの実力を持って挑んだ山行には順調ではなかったからこそ、更に自分を振り替える貴重な何かが存在した

 剣岳。山の大きさ遠さからなかなか行く機会が得れないでいた。 始めて登ったのは三年前の初秋だ。 山仲間三人で夜行列車で上野を経ち、馬場島から早月尾根を上がり別山尾根から立山を経て二泊三日で室堂に出た。 新田次郎氏の「点の記」を全員が読んでいたので、山頂では大いに盛り上がった。 「雪を背負ってのぼり 雪を背負って降りよ」行者様が伝えたその一文は出てくるものの、 実際の長次郎雪渓を見ても自分とは無縁の場所という気がしてまだピンとはきていなかった。 そのくせ源次郎からヘルメット姿で上がってくる女性を目で追い、 八ツ峰の荒々しい岩峰に漠然とした憧れを抱いてしまっていた。 まだ会に入会して1年弱、ロープワークもほとんど知らない頃である。

 今回、その憧れの場に近づける機会を得れたのはとても喜ばしい事だった。 直前で参加メンバーの変更、再度の意思確認。今更ながらのミーティング、バタバタした感はあったが時間が迫る中での活動が、 かえってパーティー全体に緊張感と団結力を与えてくれたようにも思う。 又、自分達がいかに人任せの山行をしようとしていたか、だらしのない己を気付かせてくれる良い機会にもなった。

 最終メンバーは4人。丁度男女半々で男性は各々チンネをメインに、 女性は各々八ツ峰主稜をメインにしたいという希望があり、自ずとパーティーが二手に別れた。 しかし、メインに挑む前に雪や岩の状態に慣れておこうという事で、6峰Cフェースを一緒にやろうということになった。 入山から翌日のCフェース登攀までは4人共に行動し、それ以降はチンネ隊と八ツ峰隊とに別れて行動する。 計画上、途中にテンバで合流する機会はあるものの、 気にすると互いに心配の種になってしまい集中出来なくなってしまうので、あくまでもパーティーの責 任下で行動し4人の最終合流地点は下山日の扇沢駐車場とした。 本当に自分たちの力だけで行く山。かなり緊張である。

 結果は無事故であったものの、全て計画通りに行けたわけではなかった。 しかし、自らの実力を持って挑んだ山行には順調ではなかったからこそ、更に自分を振り替える貴重な何かが存在した。 今後の自分の山に大きな影響を与えてくれた剣岳であったように思う。

●八ツ峰隊計画
7/31 扇沢〜室堂〜真砂沢ロッジ
8/01 真砂沢ロッジ〜八ツ峰6峰Cフェース剣稜会ルート〜真砂沢ロッジ
8/02 真砂沢ロッジ〜八ツ峰56コル〜主稜〜三の窓
8/03 三の窓〜本峰〜平蔵谷〜真砂沢ロッジ
8/04 真砂沢ロッジ〜ハシゴ谷乗越〜黒部ダム〜扇沢

●八ツ峰隊実質行動
7/31 扇沢〜室堂〜真砂沢ロッジ
8/01 真砂沢ロッジ〜八ツ峰6峰Cフェース剣稜会ルート〜真砂沢ロッジ
8/02 停滞
8/03 真砂沢ロッジ〜八ツ峰56コル〜主稜〜本峰〜平蔵谷〜真砂沢ロッジ
8/04 真砂沢ロッジ〜ハシゴ谷乗越〜黒部ダム〜扇沢



7月31日
天気 曇り
扇沢(7:30)〜室堂(10:10)〜別山乗越(12:20)〜真砂沢ロッジ(15:20)

 30日夜22:30に4人で横浜を発ち、2時近くに扇沢駐車場に着く。車は まだまばら。2人用テントを2つ張って仮眠する。6時頃に起きてみると周囲 は既に満車状態。まだ盆前だというのに人気エリアなほどを伺わせる。 始発のアルペンルートは満員御礼状態なので、室堂までの乗り継ぎ時間が悪い が1本遅らせてすし詰め状態のトローリーバス乗り込んだ。

 室堂に着くと曇り空。雨具を着込んでる人も沢山いる。軽装の人を横目に大き なザックでえっちらおっちら。硫黄の匂いにむせながら地獄谷へと下って行く。 蒸し暑い中、蟻ん子の隊列に混じってようやく別山乗越し。 まずは剣沢警備派出所で情報集め。長次郎雪渓、チンネの取り付き、 八ツ峰のエスケープルート、いずれも今年はまだ雪が多いので注意を促された。 チンネ隊は経験者がいないので「無理に突っ込まないでくださいね」と言われ たが、KTが「そんな事はしません」ときっぱり。今回も安全第一で行きましょう。

 本日の宿、真砂沢ロッジのテンバまであと少し。 アイゼン付けてサクサク頑張る。 剣沢は雪でびっしり埋まっていて、顔には冷たい風、足元からは暖かい風が舞い上がり変な感じ。 途中で長次郎出谷合いに荷を下ろし、雪渓の状態を見に行く。上部はガスって 見えないが雪の状態は悪くはない。明日は予定通りに4人で6峰Cフェースだ。 出合いから少し下るとやっと小屋が見えてきた。テントは大小合わせて10張 弱。4天が多い中、大学の合宿のような大きいのもある。これを担ぐ体力って すごいなー。 体力無しは着いて早々夕飯を食べて、明日のために明るいうちからシュラフに入ることとする。


8月1日
天気 晴れのち曇り
起床(3:00)〜真砂沢ロッジ(4:30)〜長次郎出合(4:45)〜 5峰前辺り(6:10 ガスのため待機 晴れてから下降路チェック)〜 6峰Cフェース剣稜会ルート取り付き(08:10)〜1P目(9:30) 〜Cフェース頭(12:50)〜56コル(13:50)〜真砂沢ロッジ(15:40)

 まだ薄暗い中、一番乗りでテンバを発つ。長次郎谷に入った辺りからすっかり明るくなった。 チンネ隊は今日は熊の岩に幕営の為に、フル装備を担いで上がってくる。 見てるだけで重そう。暫く行くと右手のガレから水音が聞こえてきた。 八ツ峰に向かう朝はここで汲んでも良さそうだ。

 遠目に熊の岩が見えてきた頃、山頂方向にガスがかかり始めた。嫌だなーと思 いながら4人バラけないように歩を進めていると、あっというまにガスが降りてきて辺り一面真っ白。 5峰前辺りのガレに上がってハーネスを付け暫く様子を見る事にする。 左手から水音が聞こえてくるので、すぐ近くに熊の岩がある事が想像できる。 聞こえてくるのは水音だけでなく、他パーティーの「××さぁ〜ん」なんてのも。 ガスの中ではぐれて位置確認をしているのだが、そんなパーティーが一組ではないからややこしい。 返事があれど「今のは違う。うちは上だ」「下だ」とやっている。 取り付きなんて全く見えない。

 動くの危険に付き、我慢してジーッとしてると、やっと岩が姿を見せ出した。Aフェースのやや下辺りのガレに居た。 ガレを上がり、まずは荷物を置いて56コルへ下降路チェックに行く。雪渓は 切れてるが端のガレ伝いを使えば問題なさそうだ。 先程のガスの中で動いていた男性四人のパーティーは上手く合流出来たようでC フェース取り付きに集合している。我々もその広い取り付きに移動し、ゆっくりと準備にかかる。

 チンネ隊は不要な物を一つのザックにまとめ、もう一方のザックに二人分の靴 や水等を入れてKTが担ぎ、ザック無しのMDが全てリードする様子。八ツ峰 隊は剣稜会ルートの奇数ピッチをKKが、偶数をHMがリードする事で話が付 いた。1時間以上待ってやっと番がきた。空にはうってかわって青空が広がっている。

1P目
 スラブのフェースを一段上がって凹角に向かってKKが取り付く。順 調にまっすぐに延びたロープは残5M程度となった所で動きが止まった。 ホールドは手足共に十分にありハーケンもベタ打ちされてるので安心。流石に ガイドさんも多い初心者の一番人気ルートって感じ。最後の10Mは階段状を上 がって先行パーティーの一段下でビレイをしているKKの元へ。チンネ隊もす ぐさま上がってきて、再び全員集合。

2P目
 HMのリードでスタート。凹状を若干右上しながらのフェース。グ ラグラの大きめな潅木を越えると幅1Mの横長のテラス。上がった所と左端に 支点あり。左のペツルハンガーでビレイする。 全員上がってきてもまだ待機時間があったので、ハーケンを打つ練習をする。 左に回りこむと草付きにハーケンがあるのでここからも上がれそうだが、その 先が分からず不安なので、先行Pが上がりきるのを大人しく待つことにする。 この判断が間違え及び我々の未熟な実力。

3P目
 本来は右のブッシュを避けるように左上してリッジに出る40Mの ピッチだが、先行パーティーの後を追ってしまいほぼまっすぐに上がってしまう。

4P目
 ハイライトの20Mトラバースのはずだが、這い松の中を右へ左へ。 トラバースなんて出て気やしない。いい加減におかしいことに気づく。最 後は土の階段を上がって終了点。左を見ると、写真で見たあのトラバースがに っこり微笑んでいる。続くチンネ隊もつられて這い松から上がってきた。 後続パーティーが3P目終了点のリッジで待機しているのが見える。全く方向が違う。 皆してがっくし。この頃から雲がかかり霧雨が少し降ってきた。

5P目
 雨に降られたくない一心で最後はガツガツと上がると、そこは程よい広さの頭となっていた。 靴を履き替えて寛いでいるとガイドさんとそのお客さんが上がってきた。彼ら は渋滞を見越してなのだろう。Cフェースに上がる前にAを登られていた。無駄の無い段取りは流石だなぁ。 ちょっとガスも出てきたので急いで56のコルへと向かう。この下りは会の先 輩や派出所の方からも注意を受けた場所。三ノ窓側に行き過ぎないように気を付けなきゃ。

 降り始めは三ノ窓側の踏み跡を辿り、お花畑を回り込むように行くとコルへと 繋がる懸垂ポイントに出た。灌木にこれでもかというくらいにスリングの束が あり、ハイマツからバックアップも取ってある。 最初にMDがガスの底へと消え、続いてKT。二人が降りてるので大丈夫と思いながらも、本チャンの懸垂はいつも以上に緊張する。 翌日に控えた八ツ峰上半の登り口がすぐ左手にあるのだからチェックしなけれ ばならないのに、すっかり頭から飛んでいた。 シュルントに入らないように最後の1M迄方向に気をつけて降りる。KKが降り てくるとすぐにガイドさんが追ってきた。流石にプロは手際が違う。 明日から2日間はチンネ隊と行動が別なので、ガレで互いの行動確認をする。 デポした荷物を回収しに取り付きに戻るチンネ隊と、互いの健闘を祈って握手 をして別れた。自分にはこの別れが最初の核心だったかも。。強くならねば!!

 テンバに戻って、小屋で明日の天気を確認するとなんと午後から雨。二人共に 初めての八ツ峰。というより剣2回目。慎重にルーファイしたいし、重荷も背 負っている。我々の実力と体力では早出をしても、有に午後にかかってしまうと思われる。 エスケープルートを過ぎてから悪天になった場合を考えると怖いなぁ。 自信がないなら明日は停滞にしよう。その代わりに明後日に荷を軽くして1日で本峰に抜けて降りてくる事にした。


8月2日
天気 晴れ
停滞

 しかし、朝から快晴。いつ降るんだ?と空を見上げるも気配無し。 晴れ=チンネ隊にとって最高なはず。彼らが憧れのチンネを意気揚々と楽しんでいる姿が目に浮かぶ。 とっても嬉しいけど自分達の肩透かしな状況に複雑。 かといって今からどこかに登りに行くというエンジンもかからず、ここは割りきって剣での贅沢な時間を過ごす事に切り替えた。 体調を万全にして明日の八ツ峰を絶対に無事に抜けてやる! 気になるのはチンネ隊。いくら事前に、最終集合場所(扇沢)まで気にしないからねー。 と繰り返し言っていたとはいえ、幾度も山行を共にした仲間。 私の実力も熟知している。天気が良いのに三ノ窓に上がってこないとなると、きっと彼らは気にするだろうなぁ。 我々が八ツ峰で悪戦苦闘してる頃、きっと彼らは無事に真砂沢ロッジに降りてくるはず。 心配は少しでも早く解消させたいので行動計画変更の手紙を残して今日は早く寝よう。 (案の定チンネ隊に心配をかけてしまった。 そして詳細に記した手紙は彼らの目に留まる事はなく、笑顔で降りて来た我々は仁王立ちの彼らに迎えられるのだった。ごめん)
(ここまでH記)


8月3日
天気 晴れのち曇り
真砂沢キャンプ場(2:50)〜(5:20)5・6のコル〜(7:20)8峰頂上〜 (8:30)八峰の頭〜(11:00)本峰〜(11:50)平蔵のコル 〜(13:50)真砂沢ロッジ

 AM1:30に起床。朝ごはんの準備など、支度を始める。 前夜は、一時強い降雨があったが、この時にはすっかりあがっていて、雲は出ていたが、星が見えてまずまずの天気だった。   AM3:00前にヘッデンを点けて出発。他の2,3のテント内でも、本日の山行へ向けて支度をしているようであった。

 長次郎出合から長次郎谷の雪渓をつめる。やはり私たちが一番乗りのようだ。 熊の岩が見え始めると、時折熊の岩からヘッデンの明かりらしきものが見えた。 また、しばらく登ると、後続に別パーティーが登ってくるのが見えた。

 目指す5・6のコルへの登り口にさしかかる頃には、ヘッデンなしでも十分の明るさになっていた。 天気は今のところ快晴。長次郎谷を囲んだ山の稜線がはっきり見えた。 ここでちょっとした、うれしい出会いがあった。 5・6のコルへ上がるガレ場の途中で、体長20cmくらいの小さなオコジョが私たちを迎えてくれた。 すぐにどこかに隠れてしまうかと思ったが、しばらく辺りをぴょんぴょんと走り回りながら、私たちの様子を伺っているようにも見えた。 かわいい山の住民の歓迎(?)を受けて、ほっとした気持ちになりながら、先を急いだ。

 コルにあがる頃には、向かいの源次郎尾根から本峰のほうに朝日があたり、きれいなモルゲンロートを見ることが出来た。 そしてここからが本日のスタートだ。

 まず、ルンゼを十数メートル登り、つめたところで右の三級程度のフェースを登る。 ここが第一の核心。出だし2mくらいが普通の登山靴では少し足場が心もとない感じがするが、それを抜ければ安定する。 フェースを抜けたら、しばらく踏み跡をたどり、一般縦走路のような感じの登山道を辿ってY峰のフェース群を通過する。 Dフェースの頭からはクライムダウンができたが、Eフェースの頭からは約20mの懸垂下降をした。

 ここから次の7峰へ向かう。 事前にチェックした情報では、三の窓側の水平道を進むのだが、あまり行きすぎると7峰への登り口を通り過ぎ、 クレオパトラニードルから三の窓へ抜けるエスケープルートになってしまうので注意しないといけないということは分かっていた。 しかし、この頃になるとガスが湧いてきてしまい、 先の様子や周りの景色が見えず、自分たちが今どのあたりを歩いているのかがよく分からなくなってきてしまった。 Eフェース頭からの懸垂の後、小岩峰の脇の水平道を巻き、「次も巻けそうだね。登るような踏み跡がないもんね」ということで、 そのまま水平道を辿る。進みながらも、「どこまでこの巻き道を行くのかな?」と、ガスで先の見えない中を不安になる。

 途中、雪の残るところがあり、その先の岩峰がどうやら登れそうだということで偵察に一段上の基部まで登ってみる。 すると、長次郎谷側の基部に支点をみつける。「よし」、ということで、この目の前の岩峰を登ることにした。 支点の付いている長次郎谷側を登るより、三の窓側にトラバースして階段状になった岩のルンゼを登ったほうが易しそうなので、 そちらをつめることにする。

 40mくらい登ったところで、頭に出た。頭に出るとあんなに湧いていたガスもなくなり、視界が広がった。 ふと進行方向を見ると、なにやら事前によく写真で見た「裏くの字」に登る顕著な岩峰が。 「あれ、八峰の頭?」「ということは、ここは8峰?」「あれ、7峰はどこいっちゃった!?」ここでやっと、 巻き道を行き過ぎて、7峰を割愛してしまったことに気づく (あとで知り合ったガイドさんが教えてくれたが、雪の残っていたところまで巻き道を辿ったら行き過ぎ。 もっと手前で7峰に取り付くのだとか)。何はともあれ、残すは八峰の頭だけ。 (7峰からのクライムダウンを心配していたのだけど、図らずも省略してしまった・・・)8峰からは快晴の景色が楽しめた。

 後ろを振り返ると、7峰以下の尾根が眼下に延び、6峰のEフェースの頭(?)には2名パーティーが手を振ってくれた (ガイドさんパーティーだった)。 三の窓側ではクレオパトラニードルのやせた鋭い岩峰がはっきりと主張していた。 長次郎谷をぐるりと囲んだ山の稜線が真っ青な空に映え、源次郎尾根越しに剣沢の小屋やテント群も見えた。 本峰にたくさんの人が立っているのも見てとれた。

 8峰から頭の間のコルへは2段懸垂で降りる。両方とも10mくらい。 2回目の懸垂はそのまま下に懸垂するより右側に回り込んでクライムダウンするほうが良い(Hさんの体を張った実体験より)。 そこから長次郎谷側の細いバンドを3mくらいトラバースして、「裏くの字」の入口に立つ。 そしてルンゼを右上し、三の窓側の尾根に突き当たると、今度は長次郎谷側へ左上していくかたちだ。 程なく、八峰の頭に立つことができた。

 八峰の頭でしばらく休憩。ここまで約3時間。7峰をとばしてしまったのだが、想定外の早い到着に二人で驚いた。 景色をしばし堪能。富山県の町も遠く見渡すことが出来た。

 ここから池の谷乗越へクライムダウンし、北方稜線を本峰へ進む。 北方稜線は踏み跡がそれなりに付いていたので、それを辿って行った。 途中、日差しが強くて暑かったが、縦走路自体は難しくない。 岩山ということもあって、穂高の稜線を歩いているのに似ている。 途中、長次郎の頭付近で長次郎谷側をトラバースする際、ロープが必要な箇所があると本には載っていたが、 どうやらそこも割愛したらしい・・・。 ロープが必要だったのは、長次郎の頭を過ぎ、長次郎谷左俣をつめたコルに降りる手前で10m強の懸垂が必要なところだけだった。

 コルからは本峰に向かって最後の登りになる。 この手前で2名のガイドさんパーティーに道を先にゆずっていたが、ガイドさんたちは本峰に上がらず、左俣を下降し始めた。 左俣は上のほうは雪渓の口が結構開き始めていたので、 どういう経路で降りるのかなとしばらく様子を伺っていたが、30mくらい降りたところで引き返していた。 どうやら、このままお客さんを連れて降りるには危ないと判断されたらしい (後で、真砂沢のベース地でお二人と再会したのだが、ガイドさんに聞いたところによると、 左俣はあきらめて右俣を下降したとのこと)。

 本峰は10数名くらいの人で賑わっていた。 よく見ると、もう70代くらいの方もちらほら。一般道でも決して易しくない剱に元気に登ってくるその健脚さに感心する。 しばらく休憩して、山頂の祠の前で記念撮影。 祠では、ここまで二人とも無事に、良い条件の中で登らしてもらったことに対して感謝の意を告げる。 北方稜線で知り合った、日帰りで富山県側からチンネの頭に直接登り、 また馬場島へ降りるという健脚のおじさんと少し話をし、早月尾根との分岐まで一緒に降りることにする。

 分岐でおじさんと別れ、カニの横ばいを通りながら、平蔵のコルまで下る。 雪渓の状態を見て、予定通り平蔵谷を降りることにする。 真砂沢で同じようにベースキャンプを張って毎日元気に活動していた大学生のパーティーが既に下降の準備をしていた。 上級生が大事を取ってスノーバーを打ち込んで支点を確保しているのを横目で見ながら、 出だしの急な雪渓を、パックリ口を開いたシュルントを避けながら、後ろ向きに下って行く。 すぐにガスが出てきたため、雪渓の状態を見ながら体制を整えて、前向きで下ることにする。 途中、雪渓が完全に断裂していたため、中之島のように現れたガレ場に移り、再び雪渓に降りてそのまま剣沢雪渓の出合まで下って行った。 心配だった平蔵谷の下りだったが、無事に降りられることが出来た。 早朝、真砂沢のベースキャンプを出発してから11時間弱。まだ日も高いうちに、 順調すぎるぐらいにこの縦走を終えた事に満足しながら、あと少し、真砂沢キャンプ地への道を充実感に浸って歩いた。
(この箇所K記)


8月4日
天気 晴れ
起床(3:00)〜真砂沢ロッジ(4:50)〜ハシゴ谷乗越(6:15)〜黒部川の橋(10:30)〜黒部ダム(11:15)

 仲良くなった周囲のテントの方やガイドさん達に別れを告げ、4人で仲良く下山開始。 ハシゴ谷に向かう南股の雪渓はまだまだしっかりしている。 内蔵助平まではジメジメしていて、苔むした石がゴロゴロ。歩きにくい。 黒部の巨人・丸山東壁を遠めに眺め、各々憧れの眼差しを送る。 内蔵助谷はハイキングするには気持ちの良いところだ。 ただし、2度雪渓を横切る。ツルっといきそうで怖い。 途中シュルントを丸太にしがみ付いて跨ぐ箇所があり、かなりの形相になってしまった。 でも、他の三人はするーっと降りてきた。なんで?? やっと黒部ダムが見えてきた。なんだか人の手で造られた建造物が懐かしい感じがする。 下から見上げるダムの放流は迫力があった。しばし涼んで最後の登りに向かった。 観光客で賑わったダムに着くと、5日間の行程を見守っていたかのように2重の虹が我々4人を迎えてくれていた。
(この箇所H記)


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